「え、ケーキ? 結婚記念日に?」
「そう。だって10周年だし、ちょっとぐらいゴージャスにしたいじゃない?」
そうか10年か、という夫のつぶやきにかぶせるように、つづける私。
「誕生日にホールケーキはマストだけど、でもさ、ケーキって別に誕生日だけじゃなくていいよね。だって、お祝いしたい日ってもっといろいろあるし、それにみんなでケーキを囲む時間の幸福感って他には代えられないし」
「うん、まあ、確かにね」
まんざらでもなさそうな夫の口ぶりが、ちょっと意外だった。
スイーツ好きの間では評判で、ずっと行く機会がなかったあのお店。ネット注文でデリバリーできるらしいよ、とママ友からの情報で知り、私の気持ちは、ぐん!と上がった。
しかもそれが冷凍していない“生ケーキ”なのだとか。これは注文するしかない。そう思ったとき、頭に浮かんだのが3週間後の結婚記念日だったのだ。
いつもはこどもの好きなケーキを選んでいるけど、念願のあのお店、今回ばかりは私の好みでセレクトした。もりだくさんなデコレーションをドラマチックにまとめた姿に目を奪われ、サイトで見た瞬間に即決。
「へえ、こんなケーキがほんとに家まで届くんだ」
注文画面をチラ見する夫のテンションも、なにげに上がっているようだった。
当日。せっかくだから、と思って声を掛けた友人ファミリーがやってきた。ひさしぶりー、と座るのも忘れて話が弾んでいたところ不意に玄関チャイムが。来たぞ、ケーキ!
受け取る前に、配達員さんが慣れた手つきで箱を開け、ケーキに崩れがないか確かめてくれる。食べる前に解凍する必要がないから、届けてもらう時間帯を決めやすいのもうれしい。
テーブルの真ん中にゆっくり置く。
途端に、みんなの視線が注がれる。
さあ、はじまりだ。
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「ねえ、今度はこの、お人形がドレスを着たようなケーキがいいよう」
夜、楽しかった一日の余韻に浸りながら、ぼんやりと「東京ケーキダイアリー」のサイトを眺めていると、画面を覗き込んできた娘がねだってくる。
「そうねえ、じゃあ誕生日ケーキはこれにしようか」
「うん!」
来月7歳になる長女が、元気よくうなずいた。