首元に宿る美意識 —— ネクタイが語る装いの哲学

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updated on 2026.03.02
ネクタイという装飾を、構造から捉え直す

ネクタイという装飾を、構造から捉え直す

装いのカジュアル化が進むいま、ネクタイの存在は単なるビジネスツールから、装いを完成させる装飾へと再定義されつつある。

〈Atto Vannucci/アット ヴァンヌッチ〉を率いる加賀氏は、フィレンツェの工房で手仕事によるネクタイ作りを続け、ブランドの象徴である“セッテピエゲ(七つ折り)”を世界に発信してきた人物だ。今や希少となった手縫いのネクタイは、イタリアのみならず世界中のファッショニスタを魅了し続けている。

芯地を用いず、一枚の生地を折り重ねて作るこの仕立ては、スカーフのような軽やかさと、立体的なVゾーンを生み出す。
また各地で開催されるオーダー会では、加賀氏自らが顧客一人ひとりの装いや背景を読み取りながら提案を行っている。単なる販売ではなく、装いの可能性を広げる対話の場として支持を集めてきた。

阪急メンズ バイヤー岸田氏との対話から、ネクタイという装飾の本質を紐解いていく。

目次

PROFILE

加賀健二氏

セブンフォールド社 代表取締役

加賀健二

1964年大阪生まれ。大学卒業後ファッションビジネスに入り、25歳で独立。タイユアタイジャパンにてゼネラルマネージャー、社長を歴任後、2011年フィレンツェに〈SEVEN FOLD〉社を設立。
手縫いによる高度な技法を基盤に、クラシックとモードを横断するネックウェアを提案。〈Atto Vannucci/アット ヴァンヌッチ〉では、フィレンツェの伝統技術と現代性を融合させたコレクションで国際的評価を得ている。

岸田良一氏

阪急メンズ大阪 紳士ラグジュアリー・オーセンティック バイヤー

岸田良一

前職のスタイリストとして培った提案力を武器に、クラシックスタイルを現代的に盛り上げるためのドレスシャツとネクタイを、厳選しています。袖を通した時の高揚感、ネクタイを締めた瞬間に背筋が伸びるような確かな品質と、背景にあるストーリーを重視。阪急メンズ大阪でしか手に入らない別注アイテムも含め、「どう着こなすか」まで見据えたバイイングが信条。

構造が生む空気感「セッテピエゲ」という技術

岸田: アット ヴァンヌッチといえば、セッテピエゲの存在が象徴的ですよね。

加賀: ありがとうございます。セッテピエゲは芯地を使わず、一枚の生地を折り重ねて構造を作ります。布の重なりだけで立体を出すので、職人の技術がすべてなんです。

畳んで、まつって、一本に仕上げる。スカーフを折る感覚に近いですが、ネクタイとして成立させるには高度な技術が必要になります。

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セッテピエゲの立体感、手縫いが生む柔らかさ、そしてVゾーンに奥行きをもたらす配色設計。〈アット ヴァンヌッチ〉のネクタイは、装飾でありながら装い全体を整える存在だ。対談では、その構造と思想、そして顧客との対話から生まれる提案力について語られた。

岸田: 一般的なネクタイとは、作りの発想自体が違うんですね。

加賀: そうですね。通常は芯地で形を作りますが、セッテピエゲは生地そのものの重なりで立体を出す。だから軽さと柔らかさが同時に出るんです。

締めたときのドレープや空気感は、いわゆる他の構造のネクタイとはまったく違います。

岸田: 一本仕上げるのに、どのくらい時間がかかるものなんですか。

加賀: およそ1時間半ですね。すべて手作業です。畳み方、まつり方で表情が変わるので、職人の力量がそのまま出ます。

セッテピエゲは芯地を使わず、生地の重なりだけで構造を作るので、ほんの少しの折りのズレでも仕上がりに影響が出るんです。立体の出方、締めたときのドレープ、ノットの収まり…すべてが変わってくる。

機械縫いだと均一にはなりますが、この空気感は出せない。手でまつるからこそ、生地の柔らかさを殺さず仕上げることができます。

岸田: スカーフに近い感覚、とおっしゃっていましたね。

加賀: そうですね。一枚の布をどう畳み、どうまとめるか。極端な話、ネクタイというより布を扱っている感覚に近い。

ただ、それをネクタイとして成立させるには精度も必要になる。柔らかさと構造のバランスを取るのが一番難しいところです。

岸田: 職人の技術が、そのまま一本に現れる。

加賀: はい。だからうちの職人は本当に優秀です。セッテピエゲは誰でも作れるわけではない。折りの理解と、生地の扱いに対する経験値が必要になります。

岸田: やはり量産が難しい構造なんですね。

加賀: 難しいですね。効率だけを考えたら、芯地を入れてミシンで縫った方が早い。でも、セッテピエゲですと、軽くて、締めたときに自然な膨らみが出る。その空気感を大切にしています。

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七つ折りで構造を作るセッテピエゲ。芯地や裏地に頼らず、生地の重なりのみで立体を形成するため、折りの工程はアイロンを使わず職人の手で行われる。柔らかな表情は、こうした手仕事から生まれる。ノットをしっかりと見せるなら三つ折り仕様。ストレートシェイプやボトルシェイプといったシルエット設計も含め、オーダーだからこそ装いに応じた表情の調整も可能だ。

ネクタイで装い全体を設計するという視点

岸田: ネクタイ作りで最も大切にされていることは?

加賀: ネクタイを主役にしないことです。装い全体の中で、その人がより華やかに見えるかどうかが重要だと思います。

ネクタイ単体で目立たせるだけなら、造作もないことです。強い色、強い柄を使えばいい。でもそれだと、胸元だけが前に出てしまって、人よりネクタイが印象に残ってしまう。

僕がやりたいのは逆で、その人自身が引き立つこと。だから、オーダーいただく時に、柄や色を考えるときも、まずワードローブを想像します。その人が普段どんなスーツを着ているか、どんなシャツを合わせているか。その延長線上で、少しだけネクタイで空気を変えてあげる。

メリハリの強い色は基本的に扱いません。

岸田: 確かに、あまりピンクとか赤は見たことがないですね。

加賀: 異性を意識しただけのネクタイは、積極的には作りたいとは思っていません(笑)。僕たちが提案するのは中間色。曖昧さのある色です。

生地のみでなく長さや幅もその方に合わせて作ることができます。一見すると地味に見えるかもしれません。締めたときに、スーツやシャツと溶け合って、エレガントさが加わる。

ネクタイだけを見れば控えめ。でも装いの中に入ると印象が変わる。そこが大事だと思っています。

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中間色を軸に構成されるオリジナル柄。アット ヴァンヌッチでは毎シーズン独自の図案を展開し、コーディネートの中で調和しながら個性を引き立てる配色を追求している。

岸田: “好きな色”と“似合う色”は別物ですしね。

加賀: 皆さん好きな色はすでに持ってらっしゃいますよ。だからオーダーの場では、あえて持っていないトーンを薦めることが多いですね。

お客様が嫌いなもの、苦手なものをあえてお薦めします。もちろん、似合っているという前提で。そして、それを喜んでいただくことによって、その方が洋服を好きになって、次のステップに行けるようにしてさしあげる。それが本来のものづくりの基本だと思っています。

岸田: 例えば、これから就職、転職される、あるいは装いを一新して心機一転仕事を頑張ろう、っていう方々に、「絶対買うべき3本」をお薦めするとしたら、どんなネクタイを選びますか?

加賀: よく無地、ストライプ、ドットとかいうでしょ? 僕はね、そんな野暮なことはいいませんよ。その方が似合ってるものを薦めます。3本選ぶなら、これとこれとこれ、ってそこに無理やりはめていては、おしゃれになれないですよ。

オーダーという対話 人を見て提案する

岸田: お薦めする際、お客様のどういうところを見ていますか?

加賀: そりゃもう、理屈ではありません。お客様が纏っている“空気”や“匂い”です。来た時に大体わかります。あとは大体着ている服、ブランドを聞く。どこで作っていますか? どこで買っていますか? どの店に通われていますか?と聞けば、その人の行動パターンわかりますから、では、その方の立場やライフスタイルを含めて、このくらいはお薦めして大丈夫だなって。

岸田: そういうやりとりがあると、オーダーする側も安心できますね。

加賀: さっきの話に戻りますけど、3本薦めるっていう話ね。その方に似合うものを薦めるっていうのは前提としてありますが、一本はマルチストライプをお薦めします。

定番でずっといくブランドも多いかと思いますが、僕のところは、毎シーズン大体、そうですね、400SKUぐらい作っているので。100柄を4色展開です。年間でいうと800SKU作っていますね。

岸田: 確かに、マルチストライプのバリエーションをこれだけもっているブランドは他にいないと思います。

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アット ヴァンヌッチが得意とするマルチボーダー柄の一例。透かしの織りや金糸を織り交ぜた複雑な構成は、見る角度によって表情を変え、Vゾーンに奥行きをもたらす。高度な織り技術を要する図案のひとつだ。

加賀: 一見すると華やかに見えますが、配色やピッチの設計を細かく調整しているので、実際に締めるとVゾーンに自然な奥行きが生まれるように計算しています。無地や小紋しか持っていない方にこそ、あえてお薦めすることも多いですね。苦手意識があるからこそ、装いの変化が分かりやすい。そこをきっかけに、ネクタイの面白さを知っていただけたら嬉しいです。

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一本のネクタイは、仕立てられた瞬間が完成ではない。長年の使用によって生じる、ほつれや歪みも、職 institutional手によって修復だけでなく、サイズ変更も可能だ。解体し、アイロンをかけたあと、改めてたたみ直す。セッテピエゲのような構造は、修復にも高度な技術が求められる。

ネクタイは、装いの中心ではない。しかし、Vゾーンという空間を与えられた以上、その役割は決して小さくない。

加賀氏が語るのは、ネクタイ単体の美しさではなく、装い全体の調和の中でどう機能するかという視点だ。色柄を主張させるのではなく、着る人の個性を引き立て、スーツやシャツと溶け合いながら奥行きを生む存在。

オーダーの場で交わされる対話もまた、その延長線上にある。ワードローブ、生活環境、美意識——人を理解することから一本は始まる。ネクタイを売るのではなく、装いの入口を作る。そこに加賀氏の哲学がある。

装飾でありながら、人格を映す。首元に結ばれる一本には、想像以上に深い意味が宿っている。

お問い合わせ

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■阪急メンズ大阪 4F ネクタイ売場

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