気仙沼ニッティング
気仙沼の海を望む高台にあるお店「メモリーズ」は、「気仙沼ニッティング」の本店。約40名の編み手さんのうちの1人、温和な雰囲気を纏うたみこさんは、気仙沼の海の近くで育ったそう。一針、一針、丁寧に正確に編まれる姿を見ているだけで、どこか懐かしく、優しい気持ちになりました。
「プロの編み手さんが編んだセーターって着ると全然違うんですよ。着ている日は一日、気分がいいんですよね。」
と語るのは代表の御手洗さん。着る人のことを想い、手で編むプロセスが、そうさせているのでしょう。手編みのニットは、ほどよいテンションを糸にかけて編まれているため、糸が細くならず温もりを感じることができます。
また、「気仙沼ニッティング」は、色のバリエーションが多いのも魅力のひとつ。大阪の紡績会社と一緒に取り組み、イメージ通りの色が出るまでには苦心もあったそう…。御手洗さん曰く、他の色に比べ、“青”のバリエーションが多いのだとか。季節ごとに変化する気仙沼の海の色を表現しているのが、その理由。窓から見える気仙沼の海の色が生活の一部になっている証拠です。
オイカワデニム
1981年の創業以来、確かな縫製技術でデニムを作り続けてきた「オイカワデニム」。お話を伺った3代目の及川社長は言います。
「震災が、このブランドのターニングポイントになりました」
社屋にこそ被害はありませんでしたが、倉庫とともに数千本ものジーンズが津波で流されてしまったのです。しかし、瓦礫処理中に土砂の中から見つかったジーンズは、汚れなどはあったものの糸のほつれがほとんどなく、“復興のデニム”“奇跡のデニム”として話題になりました。
また、代表モデルの“メカジキデニム”は、社屋に避難していた地元漁師との会話の中から生まれました。吊り上げられたメカジキの吻(上顎が長く伸びたもの)は、小さいサイズのものは捨てられるのが一般的だったのだとか。漁師が命がけで吊り上げたものの一部分が捨てられてしまうことに疑問を感じた及川社長は、原材料の一部をメカジキの吻で補えれば、地元の漁師へ還元できるのではと考え、“メカジキデニム”を開発しました。
RIAS WOOD LAB. KESENNUMA
次に、唐桑地区にある元漁師の民家を自宅兼工房とする「RIAS WOOD LAB. KESENNUMA」代表の小柳さんにお話を伺いました。材料となる木材は、さくらやケヤキなど種類は様々ですが、できるだけ気仙沼の木を使っています。また、ほとんどの作品は木の風合いを残すため、染色やサンディングをせず、手間と時間をかけて手作業で削り形作ることで、他にはない温もりあるのアイテムができあがります。
長崎生まれの小柳さんは、震災後に気仙沼に移住してきました。気仙沼の人は海に関することには厳しいそう。魚を模った作品を見せても、「そんな形じゃない」と言われてしまうことも。そんな自然を愛し、自然に愛される気仙沼の人たちに囲まれ、海と山、人と人をつなぐものづくりを続けています。
斉吉商店
船が往来する気仙沼湾を望む「斉吉商店」の本店「鼎・斉吉」。気仙沼でとれた食材を使った料理は、地元の方だけでなく観光客からも人気を集めています。店長の斉藤さんに色々と教えていただきました。
“金のさんま”とは気仙沼の郷土料理で、地元ではさんまの佃煮と言われています。創業時から継ぎ足しで使い続けている“返したれ”で、骨までやわらかくなるようじっくりと炊かれた“金のさんま”は、ごはんのお供にもお酒のおつまみにもぴったり。
この“返したれ”は震災の日、工場から従業員の方が持ち出し、手元に残ったもの。気仙沼の歴史とお店の人たちの熱い想いを感じることができました。

海との関わりが深い気仙沼を語る上で、忘れてはいけないのが「気仙沼市魚市場」。
市場の朝は早く、午前5時にはすでにカツオの水揚げが始まっていました。気仙沼市は昨年まで25年連続カツオの水揚げ量日本一を誇っていましたが、今年は温暖化の影響からかカツオの北上が遅く、数が少ないのだとか。
東日本大震災では、魚市場も被害に見舞われました。しかし、市の経済の大部分を担っていた水産業を、まず一番に復興しなければという強い想いから、震災の3ヵ月後には再開されました。この行動の早さが、気仙沼で暮らす人たちにとって、いかに海が大切なものなのかを物語っています。
魚市場を後にし、市場の目と鼻の先にあり、水揚げされた魚がすぐ食べられる「鶴亀食堂」に。脂ののったカツオはやわらかく、刺身でも食べられるほどの鮮度の良さが魅力です。
“鶴亀大橋”の愛称で親しまれる気仙沼大島大橋で、本土から大島へ。
この地で、牡蠣の養殖を90年続ける「ヤマヨ水産」。代表の小松さん曰く、牡蠣の餌となる栄養たっぷりの川の水のおかげで気仙沼の牡蠣は粒が大きく育つのだとか。出荷までに2度の温湯処理をし、不純物を取り除くことで、牡蠣が栄養を吸収しやすい状態になり、さらに成長しやすくなります。
巧みなロープさばきで括りつけられた牡蠣がクレーンで持ち上げられる光景はまさに圧巻です。
食堂も併設されているとのことで、カキフライをいただきました。聞いていた通り粒が大きく肉厚、噛むたびに牡蠣の旨みが口の中に広がります。冬の味覚のイメージが強い牡蠣ですが、気仙沼の牡蠣が旬を迎えるのは春なのだとか。今からその季節が待ち遠しいです。
たった2日間の取材でしたが、気仙沼の人たちの地元への愛をたくさん感じることができました。海と山に囲まれた自然豊かな気仙沼のものづくりから目が離せません。