法人・地方自治体の皆さま2024/8/5 更新
リテールメディアとは、ECサイトや店舗アプリ、店舗に設置されたデジタルサイネージなど、「小売事業者(リテール)が提供する広告媒体(メディア)」のことです。
「小売事業者が保有する顧客の購買・行動データを活用して、オンライン広告を配信する仕組み」を指すこともあります。
リテールメディアは大きく分けてオンラインとオフラインの2種類に分類することができます。
・オンライン:ECサイト、店舗アプリ、オウンドメディアなど
・オフライン:店舗に設置されたデジタルサイネージやPOPなど
オンラインでは、顧客の購買・属性データやアプリ・サイトの行動ログなど、小売事業者が独自で持つ「1st Party データ」を活用してターゲティングを行い、顧客セグメントごとに最適化した広告やクーポン等を配信できるのが大きな特長です。
店舗に設置されたデジタルサイネージやPOP等は、オンライン広告のような精密なターゲティングができるわけではありませんが、店舗での購入直前に顧客が目にするため、購買促進の効果が高い媒体として活用が進んでいます。
広告主であるメーカー企業は、購買意欲の高い生活者に効果的に広告配信を行うことができ、小売事業者は、商品販売による収益以外に「メディアとして広告収益」を得ることができる仕組みとして、リテールメディアは注目を集めています。
最近リテールメディアが注目されているのは、いくつかの理由と背景があります。
世界的に個人情報保護の規制が強化される中で、大手プラットフォーマーのGoogleやAppleが3rd Party Cookieの利用を廃止することを表明しました。
これまでの主流であった3rd Party Cookieを活用したターゲティング広告の配信が困難になることが確実になり、小売事業者が独自で持つ「1st Partyデータ」を活用するリテールメディアは、3rd Party Cookieの制限に対する解決策として注目されています。
アメリカではすでに、AmazonやWalmartをはじめとしたリーテルメディアが急速に成長しており、その市場規模の大きさや成長速度が話題となりました。
米大手スーパーマーケットチェーンWalmartが展開するリテールメディア「Walmart Connect」では、独自の顧客データをもとにデジタルサイネージや広告配信を行っており、その売上高は、2022年には27億ドル、2023年には30億ドルに達しています。
小売事業者にとっては、広告収益を得ることで収益源を多様化することができるため、リテールメディアは非常に魅力的な選択肢となっています。
コロナ禍によって生活者の購買行動が大きく変化し、オンラインショッピングの利用が急増しました。これまで店舗などのオフライン中心で行なっていた販促施策で効果を得られなくなったことにより、小売店もデジタル施策に力を入れざるを得ない状況が生まれました。このデジタルシフトは、小売事業者にとって新たなビジネスチャンスを生み出し、オンラインプラットフォームを活用したリテールメディアの成長を促進しました。
テクノロジーの進化により小売業界におけるDX化が進み、顧客データの獲得やオンラインとオフラインのデータ統合、データを活用したAIによる来店予測など、小売事業者独自の顧客データの獲得と蓄積が可能になりました。
これにより、リテールメディアを導入するハードルが低くなり、近年リテールメディアを展開する企業が急速に増えはじめています。
リテールメディアは海外の小売業界ではすでに広く浸透しており、アメリカのリテールメディア推定市場規模は、BCGのレポート(2022年時点)によると2022年で410億ドル(約6兆円)、2026年で1,000億ドル(約15兆円)まで拡大すると予測されています。
出典:https://www.bcg.com/publications/2022/how-media-is-shaping-retail
一方で、日本のリテールメディアの推定市場規模は、CARTA HOLDINGSが2022年に実施した調査によると、2022年は約135億円、2026年には約805億円まで拡大すると予測されています。
アメリカと比較すると規模には差はありますが、3rd Party Cookieの規制や小売DXの加速に伴い、日本でも急成長が見込まれています。
日本の小売業は地域に根付いた店舗が多いためアメリカと比べて寡占化が進んでおらず、小売業の売上規模においても大きな開きがあります。
また、顧客・行動データの活用やIDの統一、EC化においても日本は遅れており、日本では多くの人が店舗を訪れて購入する習慣が残っているなど、アメリカとは前提条件が大きく異なります。
日本におけるリテールメディアは、コンビニエンスストアや全国チェーンのスーパマーケット・ドラッグストアを皮切りに、家電量販店、百貨店などでも導入が始まっており、今後も小売業界での本格展開が見込まれます。
一方で、前述した小売業の売上規模やマーケットシェア、商慣習やEC化率などが大きく異なるため、アメリカのウォルマート等の成功事例をそのまま取り入れようとしても、日本ではあてはまらない可能性が高いとも考えられています。
日本におけるリテールメディアは、アメリカの成功事例をそのまま転用しようとするのではなく、参考になるところをしっかり取り入れつつも、日本独自のリテールメディアのあり方を模索していく必要があると思われます。
リテールメディアは、小売事業者のみではなく、広告主、生活者にもメリットがあります。三者のメリットをそれぞれ紹介していきます。
・小売店が保有する顧客データ(1st Partyデータ )を活用できる
・3rd Party Cookie を使用せずに精度の高いターゲティングができる
・購買意欲の高い顧客に効率よく接触できる
メーカーやブランドなどの広告主にとっては、小売事業者が保有する購買データや行動データなどの1st Partyデータを活用して、高精度なターゲティングを実現できることが大きなメリットです。
SNS広告や通常のディスプレイ広告に比べて、リテールメディアの広告は購買意欲の高い顧客に効率よくアプローチすることができます。
さらに、ターゲティングの精度向上とともに、広告や販促の効果検証の精度も高まるため、効果を高めながら効率的にプロモーションを展開することが可能になります。
・商品販売以外の広告収益を得ることができる
・広告主であるメーカーと共同で販促施策を行うことで、商品売上の拡大も期待できる
・顧客の購買体験を向上させることにより、顧客単価(売上)アップが期待できる
小売事業者にとっての最大のメリットは、商品売上以外にリテールメディアの広告収益を得られることです。利益率が低いといわれる小売業において、収益源の多角化と収益性の向上は大きなインパクトがあります。
また、小売事業者が保有する顧客IDや購買データ等を活用することにより、広告主であるメーカーと共同で販促施策を展開することができ、商品売上の拡大が期待できることもメリットのひとつです。
さらに、生活者の興味関心に合わせて、個別に関連性の高い商品をおすすめできるため、顧客の購買体験の向上と売上拡大(顧客単価アップ)といった効果も期待できます。
・興味関心に合った情報を適切なタイミングで受け取れる
・興味のない広告を見る機会が減る
・お得な情報を受け取れる
生活者は、自分の興味関心に合った情報を適切なタイミングで受け取ることができるのが最大のメリットです。
購買・行動データを活用したターゲティングとレコメンドにより、無関係な広告が減少し、欲しい情報を最適なタイミングで、場合によってはクーポンとともに受け取ることができるようになり、より快適でお得なショッピングが楽しめるようになります。
iStock.com/Alexander Farnsworth
Walmartは、自社の店舗とオンラインサイトを通じて「Walmart Connect」という広告サービスを提供しています。Walmartのリテールメディアは、自社の保有する独自データと、アプリや自社サイト内のオンライン広告、店舗内のデジタルサイネージなどを連携させることにより高い効果を実現し、その売上高は、2022年には27億ドル、2023年には30億ドルを成長を続けています。
出典:https://advertising.amazon.com/lp/build-your-business-with-amazon-advertising
Amazonにおけるリテールメディアは、ECサイト内の検索結果ページ等に表示されるスポンサード広告(Amazon Ads)です。顧客の購買・行動データを活用して、広告主の商品と関連性が高い検索結果ページに広告を表示させています。
顧客が検索するキーワードに関連する商品を表示させるため、購入意欲と親和性の高い顧客にアプローチできるのが大きな特徴です。
検索結果ページに自然な形でタイムリーに表示される広告は、商品を検討している顧客にとっても有益な情報であることから、広告と気づかずにクリックするケースも含めて、高い広告効果が期待できます。
セブン-イレブン・ジャパンは、ダウンロード数が2,000万人を超える自社アプリでの広告配信をはじめ、セブン-イレブンの店頭に設置したデジタルサイネージ等をリテールメディアの広告枠として提供しています。
アプリを通じて得られた購買データをもとに、それぞれの顧客にパーソナライズした広告やクーポン等の情報を配信し、顧客の購買意欲を高めるとともに、顧客体験の向上と広告効果の最大化を図っています。
出典:https://www.family.co.jp/company/
ファミリーマートは、全国の約16,300店舗のうち、10,000店舗にデジタルサイネージを設置し、デジタルサイネージ・メディア「FamilyMartVision」を展開しています。
(※2024年3月時点)1週間で約6,400万人に接触可能な大規模なリーチに加え、地域や立地等でターゲティングできる広告配信プラン、AIカメラによる視認分析のメニューなども提供しています。ほぼすべての商品カテゴリーで、広告に接触した方の売上のほうが上がったという結果もでており、デジタル広告とのクロスメディアも含めて高い効果が期待されています。
出典:https://www.aeon.co.jp/ads/
イオンは、公式アプリやオウンドメディア、店舗のデジタルサイネージや会員向けメールマガジンなど、オンラインとオフラインの自社プラットフォームを横断してリテールメディアを展開しています。
約3,000万人の顧客基盤を持つイオン会員カードの顧客属性データ、決済データや店舗データ等を活用して、自社メディアおよび外部メディアへの広告配信メニューを提供しており、精密なターゲティングができるのが特長です。
クレジットカードデータを基にした正確な会員属性である点や、イオン独自の電子マネー・ポイントプログラム「WAON」をプロモーションに活用できることなど、独自の強みをもつリテールメディアとして効果的な広告展開を実現しています。
・事例6:阪急うめだ本店
阪急うめだ本店では、店舗の食品フロア(地下1・2階)のイベントスペースと、ECサイト「HANKYU FOOD」、WEBメディア「おいしい読み物」を媒体化したリテールメディアを展開しています。
百貨店として西日本NO.1の集客力と高いブランド力が特長で、オフラインとオンラインを連動させた取り組みにより、メーカー企業や地方自治体の商品販促において高い効果を実現しています。
リテールメディアは、海外の成功事例と市場規模の大きさ、3rd Party Cookieの規制、小売DXやEC化の進行などにより、今後さらに日本でもリテールメディアの取り組みが増えていくことが予想されます。
広告枠を提供する小売事業者のみではなく、広告主や生活者にとってもメリットがあり、小売店にとって新たな収益源の獲得と顧客体験の向上を両立できるリテールメディアは、今後の広告のスタンダードになる可能性も高いと考えられます。
広告主は小売事業者が保有する1st Partyデータを活用でき、小売店は新たな収益源の獲得と顧客体験の向上を図ることができるリテールメディアを、ぜひこの機会に検討してみてはいかがでしょうか。
株式会社阪急阪神百貨店では、事例で紹介した「阪急うめだ本店」のメディア化をはじめ、日本の商慣習に適した百貨店独自のリテールメディアの提供と推進に取り組んでいます。
百貨店の集客力やブランドを活用したリテールメディアにご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
株式会社阪急阪神百貨店
リテイルメディア担当
hankyu-food.media_contact@hankyu-hanshin-dept.jp
※商品情報や販売状況は2024年08月05日時点でのものです。
現在の情報と異なる場合がございますが、ご了承ください。