マイブームと言う言葉を生み出し、
数々の「他人には伝わり辛い自分だけの楽しみ」
を提唱してきた
“イラストレーターなど”のみうらじゅん氏。
世間の声に惑わされず、
ひたすら我が道を歩み続ける彼は、
まさに「VIVA LA VITA」な生き方の
達人だといえるだろう。
今回、阪急メンズ2024年秋冬シーズンの
アイコンとして登場してくれたみうらじゅん氏に、
マイブームや人生観について、お話を伺った。
みうらじゅんといえば、マイブームをなくしては語れない。一時は社会現象にもなり、今ではすっかり世間に定着したこの「マイブーム」は、どのような背景から生まれたのだろうか。「実は『マイブーム』で1997年に流行語大賞をいただいてから、困ったことになりました(笑)。この言葉を考えてしまったために、自分の首を絞めたんですよ。今でこそ落ち着きましたけど、当時は毎週のように取材が来て、『今のマイブームは何ですか』という話を、何度も何度も訊かれました。その都度、熱く語らなきゃなりませんから、必死でマイブームを探す日々。最初は漠然とした、自分の中にある、自分の中だけで流行っているものという意味で『マイブーム』という言葉を作ったんですけど、そうそう新しいマイブームなんて出てこないわけですよ。だから仕方なく『今、天狗がマイブームなんですよ』とか言ってみてから好きになるわけです(笑)。マイブームってちょっと滑稽なことを言わないと許してもらえないところがあるでしょ?普通の趣味とは少し違ってね。『レコード鑑賞です』程度では許してもらえない。だからその都度、その場で思いついたことを言って、後から好きになっていくっていう方法を取り出したんです。そしてそれが自分の仕事というか、生業になっていくわけです。でも、自分がグッとくるくらい好きなモノとの出会いって、僕の場合、高校くらいでもう終わっているんですよね。そんな都合よく、向こうから自分の気に入りそうなことが飛び込んでくることってないわけで。
それまでは、僕は怪獣とか仏像が好きだったんです。この仏像っていうのが、唯一とても違和感のある趣味だったので、現在まで続いてるんですよ。それで周りの友達から総スカンを喰らいましたけどね(笑)。その頃、世の中で流行っていた怪獣は、クラスの中でも当然流行っていて、何人も好きな奴がいるわけですよ。その中にいると当然のように比較が生まれて、誰よりも知っているとか、誰よりも詳しいって勝負の世界になっちゃうんですよね。僕はその比較するのがすごく辛くて。結局、悩み事って比較から生まれてくるわけでね。そこで、親兄弟、他人、過去の自分と比べない、出来る限り“比較”で競わないようにする。僕はこれを今、「比較三原則」と呼んでいます(笑)。ちなみに仏像は、怪獣の異形さと似ているところに気づいてグッときたんです。京都の東寺。講堂の立体曼荼羅を見たときに、須弥壇の上に並んでいる密教仏が、本当に怪獣のように見えてねぇ。それが須弥壇の上に乗っているわけで、拝観者は45度くらいの角度で見上げますよね。まさに怪獣に対する目線というか。当時は怪獣のアトラクションショーみたいなイベントがデパートでよくあったんですけど、それを見た時に、自分とあんまり背丈が変わらない着ぐるみに少し幻滅したとこもあって。そこで仏像を見ると、丈六といって、3メートル近い仏像もおられますから。こっちの方が怪獣に近いなって思って、好きになったんです。でも、それを極めて熱く語ると、どんどん友達をなくしていくというね(笑)。当時、僕はすでにウルトラマンが弥勒菩薩であるということに気がついていました。あのシンメトリーな顔と、特にウルトラマンの1号マスク。口が開いているんですよ、そのウルトラマンは。で、口角が上がっている。まさにアルカイックスマイルです。これはもう、弥勒菩薩を模しているに違いないということを、熱く学校で説いたところ、『もうお前の話はいい』と言われてしまって。でも結局、後になって、そのデザインをした成田亨さんという人が出された本に、『ウルトラマンが弥勒菩薩だと言っている人がいるけれど、それは本当だ』って書いてあった。僕正しかったんですよ。異形の創作物のルーツは、やっぱり仏像なんですよね。でも、だからといって、それでモテることはないし、逆にモテなくなる(笑)。
僕の初デートの相手は友達に紹介してもらった彼女だったんですけど、自分が一番得意になれるところでデートしたいと思ったので、当然京都の東寺の講堂にお連れして、弘法大師はすごいんだという話を一生懸命語っていたんですよ。で、立体曼荼羅っていうのはそもそも図像で表してあるものだから、立体でフィギュア化したことって初なんだ、すごいんだ、みたいなことを熱弁していたら、『みうらくん、もう帰っていいかな?』って言われちゃいました(笑)。マイブームというのは、結構辛いんですよ。それを持続して好きでいなければならないというルールもあるから。僕はもう長いことそれを生業にしてきたので、今ではインタビューを受けても、その時にふと頭に浮かんだ『今、ゴム蛇が大好きです』みたいなことを言って、『またまた〜』とか言われて笑いを取れるようになりました。その後、慌ててゴム蛇を調べて、日本各地にゴム蛇買いに行くっていうツアーをすることになるんですけどね(笑)。なんでしょうね、僕の琴線に引っかかるものは、大概、絶滅危惧種なんですよ。ま、僕のマイブームっていうのはそういうものが多いですね」
01. レンチキャラブーム
04. カニパンブーム
03. ユノミンブーム
05. ゴムヘビブーム
02. 仏画ブーム
05. ゴムヘビブーム
04. カニパンブーム
06. ゆるキャラブーム
03. ユノミンブーム
06. ゆるキャラブーム
みうらじゅん氏が語るように、マイブームというのは他の人に理解されづらいという側面がある。ただ、自分が惹かれて好きになるものが、他人の共感を呼ばないことが多いのか、あえて他人には響かなさそうなニッチなものをマイブームに選んでいるのか。そのあたりを、さらに掘り下げて訊いてみた。
「そもそもマイブームには概念なんてないんです。あるとすれば違和感ですよ。ものすごく変わっていることって、意外と一般の人は気づかないんですよ。僕はたまたま、サムいことに敏感な人間だったから、違和感には早く気がつくんです。もともと、『マイ』と『ブーム』って水と油の言葉じゃないですか。『マイ』っていうのは個人のことで、『ブーム』っていうのはour(私たちの)のことですからね。マイナスの言葉とプラスの言葉を引っ付けるのが、言葉を作るときのルールみたいになっているんですよね。後に考えた『ゆるキャラ』も、キャラっていうのはそもそも立ってなきゃなんないのに、ゆるいのがいるっていう。初めて思ったのはちょうど『とんまつり』って言って、トンマな祭りばっかり見に行くっていうマイブームがあったんですけど、世の中では『奇祭』って呼ばれてるものです。祭りは、そもそもハレの日と言って、その日はルール無用で無茶をやってたわけです。だから、それを封じ込めるために『奇祭』っていう言葉に置き換えたんでしょう。
それで、『とんまつり』を見に全国をまわってたんです。その時、ある町で国民体育大会イベントがあって、そのポスターに見たこともないキャラクターが描いてあるのを見つけた。『みんな来てね』って言ってるんですけど、そもそも何だか分からないキャラに『みんな来てね』ってダメじゃないですか。なんか精一杯頑張っているようなんだけど、それが全然現実的ではない活躍ぶりなんです。すっごい違和感がある。一個も立ってないやつが人を呼び寄せている違和感に逆に感動して、そういうキャラクターばかり見る旅をはじめたんです。 “ゆるキャラ”という言葉はだから、20年以上も前に作りました。ゆるいやつばっかりいる中だったらそいつらも活躍できるのに、メジャーなやつの中でそんな状態で勝負しようとしてる君が間違っているよ、っていうことを教えてあげるためにね。後にそれをマイブームとして世に発表するんですけど、本当のブームになればいいなと思っているわけではないです。今でもそうですけど、何なら流行らない方が良いくらいに思ってる。その方が違和感のままでいれるから。じゃあなんで発表するんだって言われたら困るんですけど、僕は、多分100年後の柳田國男さんのためにやっているんです。マイブームは、100年後の民俗学のことだと思っているんで。だから、今世の中で本当に流行っていることは、僕がやっても仕方ない。そのことには自分にも言い聞かせています。極力流行っているものには触れないようにと。そうすることによって、自分を純粋培養するように生きてきました。今も、できる限り新しい情報は入れないように生きているので」
07. 展示風景
09. テングーブーム
08. ツッコミ如来立像
10. ゆるキャラブーム
09. テングーブーム
10. ゆるキャラブーム
好きなモノやコトに囲まれて生きることほど幸せなことはない。ただ、マイブームの生みの親にとってさえも、やはり「好き」を貫くのは大変なことであるらしい。だからこそ、無駄な情報にアクセスせず、自分の中で「好き」の種を育てていくのが大切なのだと気づかされる。そして、好きなことを貫くために何より大切なのは、自分の足で出向いて、実物を見て、手にとって、感じるということ。そうすることで、みうらじゅん氏は自分の目と感覚を養い、多くの人に見過ごされていた数々の愛すべき「マイブーム」を見出してきたのだ。近年ますますその感覚に磨きのかかっているみうらじゅん氏が、今、気になっているマイブームは何だろうか。
「基本的に、マイブームは好き嫌いがあっては見つからないです。苦手とか好きだけで分けていると、違和感のあるものって見落としがちなんですよ。だから僕、ある時期から好き嫌いでものを見るのをやめて、少しでも違和感を覚えたものを、無理やり好きになっていこうという運動をしているんです。質問の今のマイブームなんですがね、今は『イワシの群れ』。イワシの群れって、気にはなっているでしょう、きっとみんな。気になっていないですか(笑)。水族館に行っても、イワシの群れはつい見ちゃうでしょ?ついマンタとか、イルカとかのスターたちに目が奪われがちだけど、あれ、すごいじゃないですか、なんか。僕たちは、若い頃、よく上の人から「群れるなよ」と、言われてきたじゃないですか?でも、イワシは平然と群れている。そりゃ、イワシにもちゃんとした理由があるんでしょうがね。でも、『イワシの群れ』っていう言葉、1回口に出すと、何だかグッとくる。それが自分の耳に入って、頭で『あ、自分は今これが気になっているんだ』って勘違いするっていうか。だから、そういう時は、できるだけ大きな声で言うようにしているんです。それから、何を集めればイワシの群れが好きになるかということばかり考えて。そう思って探してみると、イワシの群れを描いた絵本もあったりする。スーパーに行って、じゃことか買う時もやっぱり気になるわけですよ。これ、群れてるじゃないかって。今まで1回もそんなこと思って買ったことないし、普段は食べるために買っているのに、ある時、撮影したいがために買ったんですよね。そうやって段々群れているモノに移行していくんですけど、それが好きだってことを自分の中にフィックスさせるにはどうしたら良いかと考えた答えのひとつが、コロナ禍になった時からはじめた『コロナ画』なんですよ。
F10号キャンバスにアクリルで、依頼されてない絵を描くっていう。そもそも自分は絵を描くのが好きでこの仕事をはじめたくせに、一旦絵で仕事を得てしまうと、依頼を受けた絵しか描かなくなったじゃないかと思って、依頼がない絵を描くブームっていうのを起こしてみよう、と。描く絵は全部連作にしてるんですけど、今ではそれが140枚くらいになって、ピカソの『ゲルニカ』を抜くサイズになってます。その中に、とりあえず今までのマイブームを描きました。そこでちょっとハードルが高かったのは、やっぱりイワシの群れです。面倒くさいじゃないですか、細かく描かないとダメだから。イワシの群れって、一匹描いたところで群れには見えませんからね。そこでちょっと葛藤が生じたんです。でも、ダメだ、好きになるためには描くしかない、と。それでイワシの群れを頑張って描いたんです。だから今では、かなり好きだと思います、イワシの群れ。かといって、イワシに詳しいわけではないです(笑)。イワシの群れっていう言葉の響きにグッときているだけです。マイブームって、エンターテイメントな要素もないといけませんからね。聞いた人に『バカじゃないの?』って言ってもらわないと、マイブームとしては成立しないっていうルールが僕にはあるんですよ。今、『マイブーム』は広辞苑にも載っているんですよ。でもね、その解釈は僕からすると間違っています(笑)。そこに必ずや、エンターテイメント性がないとダメなんですよ。笑ってもらってナンボじゃないですか」
11. ヘンジクブーム
14. 二穴オヤジブーム
13. 金プラブーム
15. コロナ画ブーム
12. ユノミンブーム/
金プラブーム
15. コロナ画ブーム
14. 二穴オヤジブーム
16. アウトドア般若心経ブーム
13. 金プラブーム
16. アウトドア般若心経ブーム
マイブームについて語るみうらじゅん氏は、水を得た魚のごとく、実に生き生きとしている。世間に対して少し斜めに構え、ゆるキャラのごとくゆる〜く、どこか行き当たりばったりに過ごしているように見えて、実は何事にも真摯に向き合い、人生を謳歌しているのだ。マイブームは仕事、などとうそぶいてはいるが、それは一種の照れ隠しだろう。奇妙奇天烈なマイブームの種を大切に育て、本当の「好き」へと成長させる過程を、みうらじゅん氏は心底から楽しんでいるのだから。人生を楽しく盛り上げるスパイスは、案外些細な日常の中に眠っているのかもしれない。
最後に、あなたにとって『VIVA LA VITA』な生き方とは?と尋ねたところ、想像のはるか斜め上をいく答えが返ってきた。
「僕たちは、人生というものが好きな世代。フォークソングでも歌謡曲でも、人生を歌ったものがたくさんありましたから。だから僕たちは、つい人生について重く考えがちなんです。だから、さっきのマイブームの原理じゃないですけど、やっぱりそこに水と油を合体させた方がいい。それが多分、『VIVA(万歳)』につながるんだと思うんですけど、違います?僕は、ある時から『人生は暇つぶし』っていう格言を自分の中に取り込むようにして、すべて暇つぶしでやっているんだっていうことを強く念じるようになったんです。そうじゃないと、ついつい人生を暗く、重く考えたりしがちですからね。そもそも人生に目的とかないじゃないですか。きっとどこかで刷り込まれただけのことで。目的がないとダメだとかいうけど、目的は生きて死ぬだけのことですから。NEVER GIVE UPとかもよくありますけど、頑張ることも、別に本当はどうでも良いことじゃないかということを強く思ってないと、暇つぶしの域にはいけないから。そのためには、いつも陽気にしてることが肝心です。こうやって、きっと使われないような部分まで長いこと喋ることもその活動のひとつ。『バカだな、この人。使われないのに喋っちゃってるよ』とか思っているかもしれないけど、これが『人生暇つぶし』のいいところ。バカだなって思われるような生き方を目指していくと、『VIVA』になるんじゃないかなと思うんですけどね」
暇つぶしこそが人生そのもの。数多の暇つぶしに真剣に取り組んできたみうらじゅん氏の言葉だけに、なんだか説得力がある。重く考えがちな「人生」をゆるく捉えてしまうという「マイルール」のロジックを当てはめれば、「VIVA LA VITA!」と思わず叫んでしまう人生になるのかもしれない。バカに思われたっていいじゃないか、気楽に行こうぜ。それはきっと、人に何と言われても、気にせず好きなことを好きなだけやってみようよという、SNSに翻弄される情報過多な時代に生きる私たちに向けた、みうらじゅん氏流のエールなのではないだろうか。彼のように飄々と生きるのは難しいまでも、「水と油」から生まれるエンターテインメントのエッセンスを日々の暮らしに取り入れて、「VIVA LA VITA」な生き方を目指したい。
Photo Credit:みうらじゅんFES ツアー展示写真
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