MASTERPIECE OF LEATHER SHOES|HANKYU MEN'S

TALK SESSION

WITH
秋山 淳一郎
WHEELIE 代表
鴨志田 康人
ファッションディレクター
金子恵治
ファッションディレクター
秋山 淳一郎・鴨志田 康人・金子恵治
正統なスタイルから、ちょっとズラす
ー今回はシューズラバーであるみなさんに集まっていただきました。革靴の履き方、遊び方についてお話を聞かせてください。

秋山:ひと昔前は革靴にデニムを合わせることは許されていなかったんですよね。私は今年で57歳になるんですが、学生の頃は御法度でした。働いていた店でデニムにモンクストラップの革靴を合わせたら、「履き替えてこい」と言われたのを覚えています(笑)。

鴨志田:店によってはそういうルールがありましたね。私も学生時代にアルバイトしていた店では、パンツの裾がシングルだと先輩ににらまれました(笑)。絶対にダブルじゃなきゃダメっていうね。革靴はカジュアルに履くものではないっていうのがルールでした。だけど、その後にフレンチカジュアルに憧れを抱くようになって、いかにドレスダウンをするかということばかり考えていましたね。

金子:ファッションで“はずし”という技術というか、着こなしの概念がありますけど、それってフレンチカジュアルが起源になるのでしょうか?

鴨志田:私の場合はそうでしたね。学生時代にパリにいって衝撃を受けて。いかに自由に着るかっていうことを体現していたんですよ。その後、そういったスタイルをビームスで提案するようになるんです。

ーそれが日本におけるドレスダウンのはじまりになるのでしょうか?

鴨志田:そうだと思います。ドレスコードがゆるくなったというかね。それまではきっちりとしたルールがありましたけど、いかにツイストさせるか、つまり自分らしい個性をどう表現するかという部分にかっこよさを見出したんです。

秋山:ユナイテッドアローズ創業者の重松 理さんが、白いペインターパンツに、スーパーバック(チャールズ.F.ステッド社のきめ細やかなスウェード生地)のストレートチップを合わせていて。それを見て、「すごい!」と思ったのを今でも覚えていますね。

鴨志田:あの人のズラしは超一流で。ダブルのライダースに、ウールのモーニングストライプのトラウザーズを合わせたりもしていて。とてもかっこいいですよね。

ーちょっと不良っぽいマインドもあるのですかね。

鴨志田:そう思いますね。正統なスタイルから、ちょっとズラすっていうね。そこに粋な佇まいを感じるんです。ひねりすぎもよくなくて、そのさじ加減が絶妙なんですよ。

金子:私が革靴に目覚めたのは24歳頃で、エディフィスに入ってからなんですよ。ドレス、カジュアル、デザイナーズがある店で、スタッフがいろんなカテゴリをミックスしていました。私自身、正統なルールを知らずにそうした環境に入ったものだから、自分でルールの勉強をしながら、服の着方を覚えていきましたね。正統派もはずしも両方ともすでに存在していた時代なので。

鴨志田:教えてくれる人はいなかったですか?

金子:教えてくれる人はいなかったので本や雑誌から学びました。

ーまずは正しい服の着方、靴の履き方を知らないといけない。

金子:ルールがわかっていないと、これがはずしだっていうのがわからないと思うんです。先ほどの重松さんの話も、基準があってこそ。

鴨志田:靴はまさにそうで、正しい履き方というか、立ち位置を理解していないと崩せない。タッセルローファーで例えると、紐靴よりはカジュアルだけど、コインローファーよりはドレス感がある。モンクストラップと同じくらいの感覚が私にはあります。それを知っていれば、オシャレに履くための道筋が見えてくる。靴はこうしたマナーみたいなものがはっきりしているから、足元を見ると「この人シャレてるな」っていうのはひと目でわかるんですよ。

金子:鴨志田さんにそんなこと言われると、なんか緊張してきますね(笑)。

秋山:(ユナイテッドアローズ 上級顧問クリエイティブディレクション担当の)栗野(宏文)さんも「GIORGIO ARMANI」のパンツに「Red Wing」のアイリッシュセッターを合わせていました。その組み合わせにも衝撃を受けましたね。

鴨志田:私らはアルマーニに憧れていた世代なんです。アルマーニはミリタリーやワークウェアを徹底的に研究して服を作っていた。スーツも1940~1950年代のアメリカものや、ブリティッシュのアイテムを深掘りして、あの形が生まれている。つまり、すごくルーツがあるんですよ。それでプライベートでは靴は「Alden」を合わせていましたね。

ーやはりアメリカなんですね。

鴨志田:当時、パリにあった「MARCELLASSANCE」の店や、「Hémisphère」なんかに行くと、「Alden」を推しているんです。足元はやっぱりアメリカだよねっていうムード。それをいかにフレンチっぽく履くかの勝負でしたね。

ー今日はみなさんに自身のマスターピースとなる靴を持ってきいただきましたが、鴨志田さんはまさに「Alden」のタッセルローファーですね。

鴨志田:これは自分が古くからとても愛用している靴のひとつです。買ったのは1990年代です。私はアメリカもので育っているから、ローファーが好きなんですよ。タッセルって大人っぽくてキザな印象があるけど、これをデニムに合わせながら、普段履きするっていうトラッドのかっこよさがあって。さっきも話しましたが、コインローファーよりもドレス寄りなアイテムで、それをカジュアルに日常的に履くっていう距離の取り方が好きです。

秋山:これヤギの革ですよね。

鴨志田:そうなんですよ。「Alden」といえばコードヴァンの印象が強いけど、タッセルの場合は、こういう革のほうがオヤジっぽくてかっこいい。本当に大好きな靴ですね。

ーこれは勝手なイメージですが、「Alden」は革靴の入門としても入りやすいような気がします。

鴨志田:そうかもしれません。いい革靴はいつまでも履けますから。学生時代に買って、おじさんになっても履く靴としては、すごく上等なブランドだと思いますよ。ヨーロッパの靴にはない無骨さもアメリカのよさだと思うので、それも「Alden」の魅力かと思います。

「Alden」のタッセルローファー
鴨志田さんがマスターピースに選んだ「Alden」のタッセルローファー
多様な履き方を受け入れてくれる
クオリティの高さと懐の深さ
ー秋山さんは現在「F.LLI Giacometti」のインポートをしながら、企画にも参加されていますよね。企画の上で大切にされていることはありますか?

秋山:カジュアルに合わせることを考えますね。やっぱり「履き替えてこい」って言われたのがトラウマというか……(笑)。あとは鴨志田さんをはじめ、先輩方のスタイルを見て憧れを抱いていたというのも大きいです。

金子:私がバイイングをしていた「L'ECHOPPE」でも買い付けていましたが、クラシックである一方、服と並べて展開するのがとても合う靴です。靴屋で展開するイメージがあまり湧かないというか、セレクトショップにすごくフィットするんですよね。

鴨志田:いいこと言うなぁ~(笑)。

金子:(笑)。靴のクオリティやどんな背景で作られているかなど、そういった話ももちろんできるんですけど、その上で服とどう合わせるか? ということをイメージしやすいと言いますか。他の靴とはちょっと違う。秋山さんに話を聞くと、服との相性をすごく考えて作られているのがわかります。

ー具体的にどういった部分から感じられますか?

金子:全部ズラして作られているんですよね。もちろん直球の靴もありますけど、その上でズラしたものもあるというか。たとえば今日、私のマスターピースとして持ってきた1足が「F.LLI Giacometti」のチャッカブーツです。

秋山:これは某スケートブランドのシューズがリファレンスになっています。

鴨志田:なるほど。そう言われると、確かに納得がいきますね。

秋山:履き口にパッドが入っていたり、シューレースもあえて太くしているんですよね。

ーなるほど。それを知ると、履き方のイメージがしやすいです。

金子:そうですよね。文脈を辿ると、太いデニムを穿こうかなとか、ペインターパンツをロールアップして適当に合わせるのもアリだなとか、イメージが湧きますよね。あとはあんまり磨かないほうがいいな、とか。

鴨志田:汚したくなりますね(笑)。いいズラし方ですよね。それもこれも作り手の個性ですよね。靴を知っていて、服も好きな人が作る靴。職人のクラフトマンシップと、デザインの魅力がうまく融合した例だと思います。秋山さんが履いている今日のオックスフォードも、やはりどこからしさがにじみ出ていますし。

秋山:服がないと靴が履けないですからね。

鴨志田:時代の捉え方がすごく巧みですよね。ベーシックなものを、どうやって時代に合わせるか。服だったらパンツの裾幅に時代感が現れたりしますけど、靴もどれだけコバを出すかとか、そういう微細なところにセンスが出ますよね。秋山さんの場合、靴の基本を知った上で、どういった味付けを加えるか。そのバランスの整え方が本当に上手なんですよ。

秋山:そう言っていただけると、とても嬉しいです。「F.LLI Giacometti」はあまり歴史が長くないんですよ。イギリスのメーカーにはあるけど、イタリアにはないみたいな。

鴨志田:いいファクトリーはたくさんあっても、服をわかっている、時代を感知しているメーカーは少ないかもしれないですね。

秋山:でもクオリティはとても高い。「Queen Classico」に負けない材料と手法を用いているので。

鴨志田:革靴はクオリティが大事ですよね。

金子:確かに。私らがこうやって遊べるのは、しっかりとしたクオリティがあるからだと思うんです。ベーシックな部分での安定感というか、その上でどう遊ぶかということを考えている。そういうブランドやメーカーってあまりないですよね。

ー秋山さんのマスターピースも「F.LLI Giacometti」ですね。

秋山:これは“MARMOLADA”というラインで、「F.LLI Giacometti」で最初にヒットした靴です。工場があるエリアには、かつてスキーブーツや登山靴を作っていたファクトリーがあって、ノルウェイジャン製法で靴を作ることができる職人達に生産をお願いしたいと思ったんですよ。いろんな下請けの仕事を受けていて、テクニック的にもそうした技術が生かせると思いました。
あとはもう1足のグルカサンダル。先芯を入れて爪を隠せるようにして、革靴っぽく作っているものです。職人達はアッパーの縫製が抜群にうまいので、履き口のライニングとの間にカンガルーの革を入れているんですよね。そうしたことで伸び防止になるのと、ツヤがあるから切り口も美しくに見える。

鴨志田:ディテールの積み重ねですよね。だから美しくなるし、やっぱりクオリティが大事ということですよね。クオリティファーストという意味ではなくて、美しい靴を作るためにはクオリティも欠かせないということです。

「F.LLI Giacometti」のマウンテンブーツとグルカサンダル
秋山さんがマスターピースに選んだ「F.LLI Giacometti」のマウンテンブーツ(左)とグルカサンダル(右)
・F.LLI Giacometti→
・マウンテンブーツ→
・グルカサンダル→
「F.LLI Giacometti」のチャッカブーツ
金子さんがマスターピースに選んだ「F.LLI Giacometti」のチャッカブーツ
ディテールの積み重ねが美しい靴を作る
ー気になったのが、今日は鴨志田さんも金子さんも、「JOHN LOBB」の革靴を履かれていますよね。

鴨志田:私のはパーソナルオーダーで作ったものです。英国製ではあるけど、今は「Hermès」の傘下ということで、その香りがするものをオーダーしました。

金子:すごく品がありますね。イギリス製だけど、フランスの靴に見えるというか。

秋山:「JOHN LOBB」って、すごくいい革を使っているんですよ。それがフランスっぽくさせるというか。

鴨志田:なるほどね。さっきからフレンチトラッドの話ばかりになっていますけど、いろんな国が混ざっているんですよね。イギリス製のツイードジャケットを着て、アメリカ製のデニムを穿いて、靴はイギリスとフランスが混ざっていて。それをどうミックスするか。自分流にどう味を整えるか、というところにフレンチトラッドの真髄があると思います。

金子:私は“Lopez”というモデルを履いていて、シュッとしたシルエットが最高に美しいと思うんですよ。すごく洗練されていますよね。

秋山:「JOHN LOBB」はパターンも独特なんですよね。型紙も歩留まりの悪い、作るのも面倒なものが多い。そことそこをつなげるの? っていう、ちょっと常識破りなパターンです。靴マニアの方々はきっと、そんなところも見ているんだと思いますよ。

金子:それはとてもマニアックな部分ですよね(笑)。

ーだけど、決定的な違いがそこに生まれるわけですよね。

秋山:あとはやっぱり革のクオリティの良さ。そこはダントツです。

金子:この靴自体がすごくきれいだから、手入れをしなくても独特の雰囲気が残るんです。なのであえて気にせず履くみたいなことができて、私みたいなはずし好きにはとても便利な靴だなって思います。

ー磨かなくてもいいんですね。

鴨志田:なんでもかんでもビカビカに磨く必要はありません。デニムに合わせたりもするから、光っていればいいというわけでもない。そこにもやっぱり個性が出るというか、履き方に含まれる要素ですよね。

秋山 淳一郎
鴨志田 康人
金子恵治
正解はない。だからこそ間違いもない
ー鴨志田さんは先ほどパーソナルオーダーで作ったとお話されていましたが、その魅力はどんなところにありますか?

鴨志田:好きなモデルを選んで、フィッティングをして、最後に色というか革を選ぶんですけど、やっぱり既製品にはないおもしろい靴ができるところじゃないでしょうか。そんな機会もなかなかないと思いますし、おすすめですよ。

金子:色を選択するときに、テーマを決めるといいですよね。そのときの気分で選んじゃうと、つまらない。そういうコンセプトの相談役とかやってみたいな(笑)。

鴨志田:お客さんの好みを聞き出して、それならこういうのはいかがですか? っていうね。そういう提案はおもしろそう。

金子:鴨志田さんに接客してほしいですね。「どんなのが好き?」って(笑)。

鴨志田:そんな、上からは言わないですよ(笑)。

秋山:鴨志田さんに言われたら従うしかないですよ(笑)。

鴨志田:昔のセレクトショップみたいでいいね。

秋山:だけど、やっぱりまだまだ「革靴=スーツに合わせるもの」っていうのは常識でしょうか? 個人的にはカジュアルに合わせたいと思っているけど。

鴨志田:そういった靴をどう崩すかですよね。スーツはビジネスマンの道具ではなくなってきているし、遊びのためのものになりつつある。そのほうが本来のスーツのかっこよさが出てくると思うんですよ。そこにどう革靴を合わせるか。カジュアルな場面でもスニーカーに対してマンネリを抱いている人が増えていると思うから、新しい魅力を発信できたらいいですよね。

ーどう崩すかではあるけれど、崩し方が合っているかどうか、そこに不安を感じる人もいると思うんです。

金子:そんな相談を受ける場所があってもよさそうですよね。

秋山:正解はないからね。だからこそ間違いもないというか。

鴨志田:似合っていればいいんですよ。究極はね。そこに個性があるかどうかだから。かっこよければありになる、それがファッションの楽しさでもあると思います。

秋山 淳一郎・鴨志田 康人・金子恵治
シューズラバー3名による来店イベントが開催!
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撮影協力 阪急メンズ東京 B1F Bicerin
Photo_Shimpo Kimura
Text_Tsuji
Edit_Shuichi Aizawa(PineBooks Inc.)
Design_Ryota Takeuchi