今、日本のみならず世界中から注目を集めているパティスリー「Masahiko Ozumi Paris(マサヒコ オズミ パリ)」。昨年、阪急百貨店うめだ本店で行った期間限定のイベントで話題となった人気店が、2023年10月5日(木)、同店に2号店をオープンしました。

お店を率いるのは、若きパティシエ・小住匡彦(おずみ・まさひこ)さん。今回は、小住さんにおすすめのケーキをご紹介いただくとともに、その裏に隠された自身の半生についても語っていただきました。

緻密に計算された「形」へのこだわりと美意識。

オープン前にずらりと並べられる色とりどりのケーキ。ユニークな形はもちろん、色彩の美しさも圧巻。

ショーケースに並ぶ鮮やかで繊細なフォルム。ひとつひとつがアート作品のように楽しく美しい個性を放ち、眺めているだけで期待が膨らんでいくーー。マサヒコ オズミ パリのケーキの魅力は、何と言っても一目で記憶に残るその美しい姿。

小住氏によれば、お菓子作りの中で最も長い時間をかけるのが"形を考えること"だといい、そこには「おいしいものが出来ても、見た目がきれいでなければ売らない」と言い切る彼の、徹底的な形へのこだわりと美意識が込められています。

おすすめのケーキは「Zabutonモンブラン」。阪急うめだ限定商品も登場。

栗のムースの中に入ったミルクチョコガナッシュと、アーモンドの風味が香り立つジャンドゥーヤが食感のアクセントに。
たくさんあるケーキの中からどれを選べばいいか悩んだら、まずおすすめしたいのは、毛糸で編んだようなふっくらとしたフォルムが特徴的な「Zabutonモンブラン」。厳選した洋栗と、丹波の「銀寄(ぎんよせ)」という希少な和栗を使用して作られたモンブランは、濃厚でありながらさっぱりとした甘みで、まるで栗を食べているかのよう。
チーズの香りとコクを存分に味わえるケーキ。「軽いムースで、さまざまな年代の方に食べてもらいやすいように仕上げています」と小住さん。

バッグの形をした「チーズケーキパリ」も、見た目のかわいさだけに留まらない、細やかなこだわりが詰まったケーキのひとつ。フランス産の風味豊かなクリームチーズで仕上げたムースの中にはベイクドチーズケーキが隠れており、濃厚なセンターと軽いムースが口の中で溶け合うことで、異なるチーズの風味のグラデーションを楽しむことができます。

限定商品の「フィナンシェ カカオ サンド」。常温で持ち運べるので、差し入れやおもたせにもおすすめ。
※販売は終了致しました

そして今回、阪急百貨店うめだ本店への初出店を記念し、ここでしか買うことのできない限定商品が登場。その一つが、シンプルな見た目にいくつもの驚きが隠されたお菓子「フィナンシェ カカオ サンド」です。クリームをサンドするお菓子にはクッキーやスポンジが使われることが多いですが、こちらは焼き菓子としても人気のあるフィナンシェを生地に。常温で日持ちすることを考え、バタークリームが使われています。

「味の変化を楽しんでもらうため、センターにはキャラメルクリームと、触感のアクセントになるザクザクのチョコレートを挟んで仕上げました。」(小住さん)

フランスで見つけた、パティシエという天職。

美しさにこだわった特徴的なフォルムは、現在のフランス菓子の主流。マサヒコ オズミ パリは、日本で"今のフランス菓子"が食べられる唯一のお店でもある。

パティシエとして華麗な経歴を持つ小住さんですが、学生時代はサッカーに打ち込み、一時はプロを目指していたほど。大学卒業後、自分が本当にやりたいことを見つけるため留学したフランスでも、語学学校へ通いながらクラブチームへ所属し、日本人の子供たちにサッカーを教えていました。しかし、アルバイトを掛け持ちながら、どうにか生活費を稼ぐような日々。競争の激しいヨーロッパでサッカーを仕事にするのは難しいと感じていた頃、軽い気持ちで始めたのがケーキ屋でのアルバイトでした。

「それまでお菓子を作った経験は無かったのですが、やってみたら楽しくて。自分からサッカーを取ったら何も残らない人生だと思っていたのに、そこをケーキに変えてみたら、すっと腑に落ちたんです。」(小住さん)

皿洗いのアルバイトから、五つ星ホテルのスーシェフに。

シェフであっても毎朝必ずスタッフと同じ時間に出社し、作業をする小住さん。

そこからはお菓子作りに照準を絞り、持ち前の集中力を発揮。ケーキ屋やチョコレート屋などさまざまなお店でアルバイトをしながらパティシエの経験を積み、そろそろ日本に帰ろうかと考えていた矢先に出会ったのが、人生の転機ともなるお店「A. Lacroix patisserie(ラクロワ パティスリー)」でした。

「ケーキを一口食べて、今までで一番おいしいと思った」ことをきっかけに、働かせてほしいと何度も店へ通い詰め、ようやく雇ってもらえることに。皿洗いから徐々にお菓子作りを教えてもらい、無我夢中で働いているうちにスーシェフ(副料理長)となった小住さんは、パリで一番おいしいパティスリーと認められる「ベスト・オブ・パリ」を受賞するなど、いつの間にかお店を引っ張る存在になっていました。

いくつもの球体が連なったトゥ・ショコラ。同じ材料で作ったケーキでも形によって味や食感が変わるといい、緻密に考え抜かれたバランスこそ小住さんが作るケーキの最大の特徴でもある。

しかし突然、シェフのラクロワ氏から「もう店を辞めた方がいい」と告げられます。それは、誰よりも小住さんの腕とセンスを評価し、信じているからこその言葉でした。「君はもっと上に行かなければ、僕を裏切ることになる。ここでは僕のケーキが正解になるけれど、君は君自身が正解と言える場所を作りなさい」。

そんな時、パリの5つ星ホテル「パラスホテル」から、スーシェフのテストを受けないかとオファーがあり、唯一のアジア人参加者として伝統的なフランス菓子でテストに挑んだ小住さんは見事合格。若干28歳という若さで、世界中のVIPが集まる最高級ホテルのパティシエを率いることになったのです。

星を獲り、世界へ自分のケーキを広めたい。

昨年オープンした1号店。店内にはケーキのほか、たくさんの焼き菓子も並ぶ。今後はショコラトリー、パン屋、レストランなども展開していくビジョンがあるそう。

その後、コロナ禍となり帰国を決意するまで、パラスホテルでの時間は長くなかったものの、この経験と自信が小住さんの世界をさらに大きく広げました。怒涛の日々を経て帰国し、自身のお店を構えて1年。小住さんの現在の目標は、パティスリーとしてアジア人初の星を獲得すること。星を持つパティシエは、現在フランスにただ一人だけですが、小住さんにとってそれは「夢」ではなく、近い将来に達成し得る目標の一つに過ぎません。

パティシエの小住匡彦さん。フランクな人柄だが、熱く真っ直ぐな言葉の端々に、苦労を糧に道を切り拓いてきた強い精神力が伝わってくる。

「いずれはパリでも、星を獲りたいです。あれだけ、"フランス菓子はフランス人が作った方がおいしい"と言われ続けてきた場所で外国人が星を獲得できたら、それはずっと誇れることですよね。そしていつか、自分のケーキを世界中の人に教えに行きたい。大げさですが、一目見て"オズミのケーキ"だとわかるものを誰かが作っていってくれれば、僕が死んでもケーキは生き続けますから。」(小住さん)

日本の洋菓子文化を新たなフェーズへ押し上げていく存在となったマサヒコ オズミ パリ。これから先、どんなお菓子が生まれ、何がはじまるのか。まだ見ぬ美しい形と小住さんの挑戦は、これからも私たちをわくわくさせてくれるはずです。

取材・文:斉村朝子
撮影:岡田佳那子

※商品情報や販売状況は2024年09月13日時点でのものです。
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