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慎次 祐

グローブ

「シンジトレーディング」慎次 祐

profile

グローブ開発のため、20年にわたりヨーロッパに出向くグローブのスペシャリスト。イタリアでは20社以上のグローブメーカーの開発に携わる。グローブの産地ナポリでは、職人との出会いからグローブづくりのイロハを学ぶ。また普及にも取り組み、イタリアのグローブメーカーと協力して日本国内で数多くのイベントを開催。選び方からコーディネートまで、お客様にグローブを持つ喜びを伝える。2015年から長年付き合いのあるナポリの「コレアーレグローブス」の正規代理店として最新のグローブファッションを日本に紹介している。

偏愛するものとの出会い

1991年に、ファッション雑貨を専門とする商社に入社しました。ここで世界各地のグローブと出会ったことが、私がグローブの道へとすすむきっかけになりました。

ファッション雑貨を専門とする商社で、世界各地のグローブと出会った

偏愛するものに出会って、変わったこと

グローブと言っても、さまざまな素材、色、サイズがあり、目的によって使い分けます。とても小さなアイテムですが、古くはヨーロッパの上流階級がたしなむ必須のアイテムでした。長い歴史のなかで培われたデザイン性や、多彩な色の組合せに出会い、その奥深さに魅了されていきました。特に色の組合せは、パズルをはめ込むような楽しさがあり、イタリアの工場で職人と深夜まで打合せしたことが印象深く残っています。グローブと出会ってから30年以上このアイテムのことを考え、そしてヨーロッパのアルティジャーノ(職人)たちとふれあい、多くのことを学びながら世界各地を旅することができたことが、私の人生観を大きく変えるきっかけとなりました。

ヨーロッパのアルティジャーノ(職人)たち
ヨーロッパのアルティジャーノ(職人)たち

あなたの偏愛エピソードは?

初めてイタリアを訪れたのはまだ通貨がリラだった時代で、ミラノで開催される展示会ミペル(皮革製品を中心とした国際見本市)が市内中心地で行われていた頃。勤めていた専門商社の社長から直々に買付けの仕方や工場の方々との交渉方法を学びました。1970年代、買付けといえば直接ナポリへ出向き、サンタルチア(ナポリ湾に面した港町)のホテルで待つスタイルが基本で、数社のメーカーが次から次へとサンプルを持ってホテルに押しかけてくるというもの。ナポリ湾、ヴェスヴィオ山を眺めながら商談!なんとも優雅な時代でした。当初は北イタリアのグローブ工場、ミラノやフィレンツェを中心にまわっていたのですが、何度もナポリの話が出るようになり、これは行かなければ話にならない!と考えるようになったのですが、いざ行こうとすると、イタリア人に『危ない町だから行かない方が良い』と言われ、おっかなびっくり行った記憶があります。ナポリ・カポディキーノ空港に着くと、暑い!そして降り注ぐ太陽!これぞ南イタリア。ここから迷路のようなグローブワールドにどっぷりはまっていくのです。
ヨーロッパ最大のグローブ産地として名高いナポリ。工場の多くは、サニタ地区とカサヴァトーレ地区にあります。サニタ地区はナポリの情景を想像する雰囲気そのままの雑多な街、カサヴァトーレはマフィアが牛耳る街です。タクシーで『カサヴァトーレに行ってほしい』と言うと何度も断られたことも。『なんで来ちゃったんだろう』と何度も思いました。数年間は、展示会で知り合ったナポリのメーカーを訪問して、素材、テクニック、すべてのグローブのイロハを教えてもらいました。ナポリの街にも慣れてきた頃、もっと深入りしてみようと、工場リサーチをすることに。まだスマートフォンがなく、インターネットにも情報が少なかった時代。片っ端からローマのグローブショップを調べました。そこに卸している工場を狙い撃ちする作戦です。これが功を奏して、数件のファクトリーと出会うことができました。また、インターネットの少ない情報から見つけ出したファクトリーとも巡り合いました。まるで宝探しをしているような、とても楽しい時間でした。当時ナポリだけでも最大14社の工場と付き合い、ワンシーズンのサンプルだけでも最大100アイテムを越える状態。こうなったらナポリにあるすべての工場に行ってやろう、知らない工場や商品がない状態までのぼり詰めよう、と強く思うようになりました。たくさんの工場と出会うと、ペッカリー革をグローブにする専門の職人、触っただけで革の厚みや革の特性を見抜いてしまう職人、革手袋の縫製は革に針穴が開くので一発勝負でそれを難なくこなす熟練工、グローブの最終工程アイロンがけを専門とする職人など、多くのスペシャリストと出会いました。

ヨーロッパ最大のグローブ産地として名高いナポリ
ナポリのグローブ職人

また、ナポリ市内に精通し、地元のバールへ行ったりメンズ・セレクトショップに行ったりと街の楽しみが増えてきたのはこの頃から。ナポリはワンダーランドでファッションのお買物(北に比べてとってもお手頃)、食事(海の幸は格別)、ちょっと船に乗ればカプリ島やイスキア島などどこを切り取っても世界的に素晴らしい町です。

ナポリでの食事
ナポリでの食事

イタリアの手袋の違いとは何でしょう?同じナポリのグローブでも工場によって大きな違いがあります。私が思うのは、ピッツァに似ているなと。ピッツァは小麦粉、水、塩、イーストからできています。これはどこのピッツェリアに行っても同じです。グローブも基本のコンポーネントは少なく、革(主に羊革)、裏地、縫製糸からできています。これはどこの工場も同じで、使っている機械もほぼ同じ。でもピッツェリア、グローブファクトリー、どこも個性があり違いがあります。なぜでしょうか。
まず革です。革にはAからCまでランクがあり、気丈にAランク中心に使う工場、Cランクまで使ってコスト勝負をする工場と、工場によって考えがあります。Aランクを中心に扱う工場が素晴らしいグローブを生産する工場であることは間違いありません。「コレアーレグローブス」は、基本的にAランクの革を更に厳選して使用しています。

「コレアーレグローブス」は、基本的にAランクの革を更に厳選して使用

裏地について。裏地のクオリティについても非常に重要な部分で、皮膚と接触する部分ですのでごまかしはできません。イタリアの裏地といえばカシミヤ100%。(「コレアーレグローブス」は特に)暖かさ、柔らかさどれをとっても素晴らしい出来栄えです。柔らかさは、縮絨技術(織物の仕上げの工程)でシークレットな技があるようで絶対に教えてくれません。門外不出です。
そして縫製について。ハンドステッチのグローブは、職人が一切機械を使わず、自らの手で縫って行きます。熟練工でも1日3ペアーが限界と言われるほど。一筆書きのごとく、一発勝負でピッチを狂わさず完璧に縫製していきます。これは素晴らしいのひと言です。縫製職人は高齢の方が多いため、将来ハンドステッチのイタリア製グローブは貴重品になるかもしれません。

ハンドステッチのグローブは、職人が一切機械を使わず、自らの手で縫って行きます

ピッツァと似てるところは、革を伸ばす工程でも言えます。実は、革を伸ばすときイタリアでは機械を使いません。ピッツァの生地を伸ばす様に革も手で伸ばします。全てハンドメイドです。この革を伸ばす工程を入れることで、手をグローブに入れても極端に革が伸びなくなります。また、革はもちろん動物なので個体差があります。革の厚い所、薄い所、さまざまです。イタリアの職人は革を見て、そして触って一枚一枚の革の状態を確認しながら、グローブのどの部分に使うか決めて行きます。私も革を伸ばす工程を挑戦しましたが、全く伸ばすことができませんでした。かなりの力を必要とします。これは経験がものを言う世界です。因みにこの革を伸ばす職人の指は、皆さん曲がっています。それほどの力が加わるということです。

ミクロンレベルの違いが分かる女性の指先にフォーカスした下着作り

多くの工場と付き合いながら徐々に減っていったお付き合いは、その後数社に絞られます。そんな中、同時期にフランスでも開発を進めてきました。パリでは、グローブを専門とするデザイナーとお付き合いをさせてもらいました。今では笑い話になっていますが、この方から当時かなり指導いただきました。凱旋門の近くのオフィスに通いデザインを詰めていくのですが、さまざまなデザイン案が出され感想を求められます。この時曖昧な返事をするとご機嫌斜めになってしまう方で、かと言ってはっきり言うとご立腹。この方は365日休みなくグローブのことを真剣に考えていました。あなたは考えが甘いと言われ、その時、もっと真剣にグローブのことを考えなければと深く思ったのです。ある時、パリ市内のタンナー(皮革製造業者)に連れて行ってもらいました。そこは、ビックメゾンが使用するタンナーで日本人でそのオフィスに入るのは私が初めてと言われ緊張の中そのオフィスに向かいます。扉の前で腕時計を見ます。ぴったりの時刻にチャイムを鳴らします。すると静かに扉が開きました。この会社1分でも遅れたら開けてくれないほど厳格で有名とのことでした。日本人以上に時間に厳しい感じを海外で経験したのはこの時だけです。この時の経験がカラーの選び方、そしてカラーのコンビネーションの作り方に今でも大きく影響しています。
イタリア・グローブ工場を取り巻く環境は非常に難しい状況となりつつあります。事業継承の問題です。いまお店で試せるイタリア製グローブは数年後になくなってしまうかもしれないほど、危機的状況です。そんな中でも陽気で明るいナポリ人が作るグローブをぜひ試してみてください。
「コレアーレグローブス」は阪急メンズ大阪4階、阪急メンズ東京地下1階にて取り扱っていますので、ぜひ手に取ってみてもらえれば嬉しいです。

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