はちみつのやさしい甘さを引き立てる素材って何だろう。最初に浮かんだのが柑橘類でした。柑橘類をいろいろと試作した結果たどりついたのは、はっさく。お酒に漬け込んで軽く焼いて、味わいを濃縮させほろ苦い甘さのストーリーの骨格が出来ました。爽やかなはっさくの香りから、スポンジに使われた冬青のはちみつの香りとコクが広がり、さらに、バタークリームにしのばせたジュニパーベリー、ヒノキ科の実を使った蒸留酒がほろ苦いストーリーの余韻を楽しませてくれる、複雑にしてバランスのとれたケーキに仕上がりました。
ハニーハンター市川拓三郎さんが世界中から集めている「ミールミィ」のはちみつ。これを上手にいかしてくれるパティスリーはどこかと考えて、洋酒やスパイス、ハーブ使いに定評がある京都・烏丸「パティスリー・エス」の中元修平シェフにお願いしました。
「ミールミィ」は、京都にある「金市商店」がプロデュースする蜂蜜専門店。3代目の市川さんは世界各地の養蜂家を訪ね歩き、例年は、1年に52,000kmを移動して、質の高いはちみつを集めています。はちみつは自然を写す鏡。こども達に、はちみつを通して、環境を守ることの大切さを伝える活動にも力を入れています。
「ミールミィ」のショップには、30を超える養蜂場から集めた100種類以上のはちみつが集合。ハニーコンシェルジュがお好みや用途をお伺いしてお品選びをお手伝いするほか、AIを使ったはちみつ診断で、自分に合うはちみつを選ぶこともできます。
種類が多くて、選ぶのが難しいのは、中元シェフも同じ。これまでケーキにはちみつを使った経験があまりないことから、お店からほど近い京都にある「ミールミィ」の本店で実際に話を聞き、試食しながらはちみつ選びをすることになりました。
「パティスリー・エス」のコンセプトを担当する相馬薫さんは、「今回は、はちみつをいかすためのほろ苦さで起承転結を綴りたいと思っています。物語のように、香りを感じて、香りがほぐれるのを楽しんで、咀嚼して味わって、余韻に浸れるそんなケーキを目指しています。だからヒノキのような品のいいほろ苦さを感じるはちみつが欲しいのです」とリクエスト。目をキラッとさせて市川さんが選んだのは、冬青(そよご)のシングルオリジン。奈良県生駒市の養蜂家が手掛ける冬青。春から夏に白くて小さな花が咲くモチノキ科の植物からは、ちょっと想像できない緑を感じる爽やかさがありながらコクがある味わいです。その香りと味わいにインスピレーションが湧いた中元シェフと相馬さん。はちみつの醸造酒も試飲して、ほろ苦い大人のクリスマスケーキの完成図が見えたようです。
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